嶋田 至のブログ
「氷山」の絵、ファシリテーション学習でかならず説明するモデル
2022-08-01
ファシリテーション学習で私たちがかならず説明するのが、「氷山」の絵です。
始めての学習はもとより、上級者編でも実践編でも、ふだんからファシリテーションを手掛けている人たちへの再学習でも、かならず「氷山」の絵を示します。
氷山は、ご存知のように大きな氷の大きな塊です。
氷山には、波の上に顔をだしている部分と、水面下に隠れている部分があります。
顔を出しているのは全体の1割くらいで、大部分は波の下に隠れていて、見ることが難しそうです。
人と人との関わりも、この「氷山」のようなものだと説明します。
そして、ふだんのチームワークの様子や自分とまわりとの関りを、「氷山」に当てはめて思い返してほしいと促します。
波の上に顔を出しているのは、(器官に障害がなければ)目に見えたり耳に聞こえたりすることです。
ミーティングでたとえると、どんな人たちが集まって、議題は何で、誰がどんな発言をして、最終的に何が決まったかということです。
私たちは多くの場合、この部分だけを見て話しあいを進めたり、意思決定をしたりします。
ファシリテーション=司会進行と捉えている人たちは、この部分だけを見るのでしょう。
ファシリテーションを学びはじめた人でも、ついこの部分にとらわれがちになったりします。
すこしだけ水面下に注意を向ける人もいます。
たとえば、まだ話していない人たちに注意を向ける人です。
Google社で業績の良いチームの特色のひとつは、メンバー全員の発言量が等しいということでした。
全員の発言を引き出せたら、ファシリテーションが満足のいくものに近づいた感じがするかもしれません。
もうすこし深い水面下にも注意を向ける人もいます。
発言の内容だけでなくその意図に注意を向ける人です。
「この人は私たちに何を伝えようとして、こんな発言をしたのだろう?」
「私たちがうまく受け取れていないこの人のメッセージは何だろう?」
ちょっと気になって、相手の発言の要旨を自分なりにまとめて確認してみる。
ちょっと違うキーワードを使って、相手の反応を探ってみる。
それで、その人の隠れていた意図や思いがすこし引き出せたら、関わって良かったと思います。
さらに、氷山の水面下のすこし深いところに注意を向ける人もいます。
発言者がまだ言えていない思いや、その背景にある経験などを引き出そうとする人です。
あるいは、隠されている違和感などを引き出そうとする人です。
それは当の本人も気づいていないものかもしれません。
深く深く水面下を掘り下げて、隠されているものを表に出そうとします。
もちろん時間的な制限があるので、ある程度までしかできません。
ただ、深く掘り下げる行動をとることで、その場にいる人たちの考えは変わるかもしれません。
つまり、すべての意見が出されたわけではないということです。
また、皆の考えや違和感を十分共有できたわけではないということです。
それでも意思決定したのなら、それを大事にしながら実践しなければなりません。
ただ、この後、いくらかの修正をするかもしれないという「余裕」を感じながら。
氷山を意識することで、人と人との関わりは深く、豊かになっていきます。
ファシリテーションの学びは、かならずしも「ファシリテーター」を育成するだけではありません。
多様な人たちと協働するための、基本的な構えを整えることにつながります。