嶋田 至のブログ
パートナー、長尾文雄さんの一周忌に際して
2024-12-09
チーム経営のパートナーであり、よきアドバイザーであった長尾文雄さんが亡くなって、1年がたとうとしています。(2023年12月17日逝去)
この1年、私たちは深い悲しみを伴いながら過ごしてきたように思います。
長尾さんの病状がよくないと聞いて、私たちがお見舞いに駆け付けたのは、亡くなる数時間ほど前のことでした。
ちょうど甲子園ボウルの決勝戦の最中で、長尾さんはベッドに寝たきりでテレビ観戦しておられました。
母校の関西学院大学が優勢だったので、言葉はよく聞き取れなかったものの、とても喜んでおられる様子でした。
中学生の頃から大学まで関西学院で学び、大学卒業後も同校の職員になられた長尾さんにとって、関西学院はたんなる「母校」以上の存在だったことと思います。
キリスト教の信仰をもったことも、関西学院特有の空気感によるものだったかもしれません。
在学中から、「好善社」というキリスト教の価値観で活動する団体に所属し、生涯をかけてハンセン病患者さんたちへの支援を続けこられました。
ハンセン病患者の療養施設である岡山の邑久光明園の会報には、長尾さんが長年、エッセイを寄稿しておられました。
長尾さんの最後の仕事のひとつが、この会報に載せる原稿だったと思います。
また、「関西いのちの電話」の設立に関わるなど、自殺者の予防活動にも熱心に関わってこられました。
24時間対応の電話相談員を育成するため、傾聴や自己認識・他者認識、コミュニケーションなどの研修を担当してこられました。
ハンセン病患者の支援、自殺者の予防活動とともに、長尾さんがライフワークとしてこられたのが、人間関係トレーニング(Tグループ)です。
Tグループは、第二次大戦後の米国で、ドイツから移住した社会心理学者のクルト・レヴィンが始めた学習法で、自己理解や他者理解といった人間関係に関する気づきや学びを得るための、ワークショップ型のトレーニングです。
10人弱でグループをつくり、数日間ほど生活をともにしながら、テーマのない対話セッションを何度も何度も繰り返します。
初めの頃はなごやかな雰囲気ですが、だんだんと批判めいた言動、対立や葛藤、個人攻撃などが始まり、グループは険悪な雰囲気になります。
やがて、お互いに無理のない関わり方を各人が見出し、適度な距離感をもったチームに成長していくのです。
長尾さんは長年、Tグループにトレーナー(ファシリテーター)として関わり、その中での気づきや学びを多くの文章に著してこられました。
ハンセン病、いのちの電話、Tグループの3つに共通しているものは、「傾聴」と「共感」でしょうか。
この2つの言葉は、長尾さんを知る人にとっては、長尾さんの人柄をもっともよく表した言葉でもあると感じられるだろうと思います。
2006年に、LLCチーム経営の前身であるLLPチーム経営を立ち上げたときから、長尾さんはパートナーとして関わってくださり、多くの助言やフィードバックをしてくれました。
傾聴と共感をベースとして、一人ひとりを支え、成長を促し、グループの成長を支援してくられたと思います。
このような関わり方は、私たちLLCチーム経営でしっかりと受け継ぐことができているように思います。
数年前、関西いのちの電話のニュースレターに連載していたエッセイを、『傾聴と共感』という冊子にまとめまられした。
このなかのひとつの文章をご紹介します。
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深い穴の底から空を見る
深い谷底か、深い穴の底に落ち込んでいる状態を想像してください。
谷底から上を見上げると、空ははるか上にあって、もうここから這い上がれない、抜け出せない、自分はもうダメだ、ここで人生を終えてしまうのか、などの思いが頭の中をかけめぐります。
その時、谷の上から「どうしてそんなところにいるの?そんなところで上を眺めているから暗くなるのよ」と声をかける人がいたとします。下の人は、今の自分の状態を分かって、助けてくれる人が上にいると思えるでしょうか。
「落ち込んだ」「落ち込む」という言葉は、人生のさまざまな場面で遭遇する失望、絶望、悲観、孤独、無力感などを谷底に落ちた状態に例えているのでしょう。
もし、その人が下りてきて自分の側に座り、一緒に周囲を見上げて、「ここから見ると、このように見えるんだね」と言ったとすると、どうでしょうか。
落ち込んだところから周囲を見ると、人は皆、楽しく明るく、優秀。だのに自分は不器用で、バカにされている、自分の気持なんか分かってくれる人はいない。このように感じるかけ手が電話の向こうにいます。
電話相談は、このように落ち込んでいる人に、共感をもってどのように関わるか、加えて効果的な援助ができるかが問われているのです。
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(ご参考)
・公益社団法人 好善社
https://kozensha.org/activity04.html
・関西いのちの電話
https://kaind2.com/