チーム経営の実践事例 治部電機株式会社

治部電機株式会社では、2007年の初めから、本格的にチーム経営に取り組まれてきました。
1、治部電機さんとの出会い
(1)出会い~e製造業の会~
治部電機株式会社の治部社長との出会いは、インターネットを利用した売上増大を目指す製造業の方々の集まり「e 製造業の会」でのことでした。2006年6月にチーム経営がそこで、「会議を変えれば組織が変わる」という題で、ファシリテーション型会議のあり方とリー ダーの役割について講座を行ったのですが、その参加者として社長がおられたのです。
その後、治部社長は、月一回開かれている「チーム経営研究会」のメンバーとして、チーム経営を進めるスキルや各社のチーム経営の取り組みについて学ばれました。
(2)会議のオブザーブ~会議の課題の明確化~
こうした中、2006年末に治部社長から、一度会議を見て欲しいという依頼がありました。そしてISOの枠組み の中で行われているMR(マネジメントレビュー)会議を見させて頂きました。これは月に一度、土曜の朝3時間余りをかけて行われる会議です。ここには若手 も含めて8名の方が参加しておられました。ここでは次のような課題がみられました。
課題1
ほとんどの時間を品質の不適合があった案件をどのように是正するかが話し合われていました。また細かい事柄(業務的な議案)から重要な事柄(管理的・経営的議案)までが、同じ会議の土俵で話し合われ、例えば同じ10分の時間で決められるなどの課題がありました。
課題2
このMR会議には若手の方も何人か出席しているのですが、やはり社長が一方的に話す場面があるなど発言の偏りがあり、「智恵とチカラをあわせて」大事な問題をみんなで解決していくという体制ができていなかったのです。
そこで治部社長と話し合った結果、各部門がある程度チーム的に動ける体制を築き、案件を各部門に任せると共に、大事な案件をMR会議で、知恵とチカラをあわせて話し合える体制を共に築いていこうという合意ができたのです。
2、MR会議改善プロジェクトの開始
(1)MR会議改善プロジェクトの立ち上げ
治部電機さんの事例で特徴的なのは、このプロジェクトに始めから本社工場長や営業総務の担当者などの経営幹部が 参加していただいたことです。社長にはとても重要な役割がありますが、会議などで「場づくり」に協力してくれる強力なメンバーがほかにいると、場は作られ やすくなるからです。
ともあれ、この立ち上げ時に、プロジェクトのステップと目標が合意され、当初3ヶ月という期限を決めてスタートしました。このプロジェクトのねらいは、まずMR会議という全社的に重要な会議をより創造的で、重要な課題解決ができる体制に持っていくことでした。
<プロジェクトのステップ>
ステップ1 会議ファシリテーションの勉強会と会議ルール作成
ステップ2 MR会議アジェンダ整理会議
ステップ3 MR会議における優先的議案と話し合いの進め方の明確化
ステップ4 会議ファシリテーションの実施と改善
<プロジェクトの優先的な評価指標>
<効率性の指標>
会議に費やすマンパワー(人数X時間)が削減された
(会議時間が短縮された。課題解決に必要十分な人数で会議を行っている)
重要な課題(アジェンダ)について、どのように話しあって行くのかがデザインされている(どんな情報をどこから手に入れるか、何回の会議が必要か、誰を巻き込む必要あるか)
緊急度・重要度などに応じて、課題(アジェンダ)にかけるべき時間・体力を意識できている
<創造性(課題解決力)の指標>
組織の重要な課題(アジェンダ)が、新たに明確になった
会議において優先的に討議すべき課題(アジェンダ)を明確化できている
重要な戦略的課題(アジェンダ)の検討に、今まで以上に時間を割けている
課題解決のために、遠慮なく意見・アイディアがいえる雰囲気がある
課題(アジェンダ)を解決していくのに必要な知識・スキルが意識できている
メンバーが自分の業務上の役割分担にとらわれず、積極的に課題に向かっている
(2)書記役で場に入る
2007年1月からプロジェクトはスタートしました。プロジェクトにチーム経営のスタッフが加わる場合には、「場」に受け入れられることがとても重要です。
そのためにまず、MR会議の話の流れを、模造紙に書き上げていく会議メモを取る書記役として会議に加わることに しました。発言はせず、せっせとメンバーの会話を拾っていくと、場のメンバーは徐々に安心して私を受け入れてくれるようになりました。また、会議メモが書 かれることで、すでに議論が脱線しにくくなり、また話をきいてもらいやすくなるなど会議改善の効果は上がり始めたので、メンバーは私という存在を認めてく れたのです。
(3)ステップ1 会議ファシリテーションの勉強会(会議ルール作成)
こうした下準備をした上で、まずMR会議メンバーに対し、勉強会を開き会議ファシリテーションの説明と体験学習 を行いました。ファシリテーター、書記の説明や、「場」の説明、そして何よりも実際にチーム経営のスタッフがファシリテーターになり、全社的な会議ルール を全員で定める会議を行いました。
これは智恵とチカラをあわせる「場」を体験する事が目的ですが、同時に全社的な話し合いのルールを定めるもの で、社長もそれに従う旨、始めに言っておいて頂きました。例えばここでは、「経営に役立つことであれば、きちんと言う。」などのルールが決められました。 こうしたルールの存在は、メンバーの発言を勇気付けてくれます。ここで決められた会議ルールは現在では会議前にみんなで唱和し、会議に振り返ると言う形で 実際に使われています。
また、このステップで重要だったのは、会議におけるプロセスをふりかえる習慣ができたことです。普通私たちは、 会議が終わった後、自分がよく発言できたかとか、言いにくい雰囲気はなかったかなどのグループプロセスはふりかえりません。しかし、これをふりかえること で、業務改善と同じく会議の場も発展していきます。
このステップでは、ふりかえりシートを、チーム経営スタッフが集計し、無記名性を保った上で直ちに、メンバーにフィードバックするという方法を取りました。
(4)ステップ2 MR会議議題整理会議
次に、MR会議が取り扱うべき案件を整理する「課題の整理・整頓」の会議を行いました。
どのような組織も一杯課題を抱えているので、一つの会議で何もかも課題を解決していくことは到底できません。 従って、課題を整理・整頓し、各部門や担当に任せる案件や、社長が一人で決める案件を整理し、会議からはずす必要があります。そして、全社的で重要な案件 に十分な時間を費やせる体制を築く必要があるのです。
具体的には、MR会議で抱えている課題を棚卸し、何を取り扱うべきかを考えていきました。これには丸一日の時間 が必要でした。結果、今までの会議のほとんどの時間をとっていた、製造・設計・検査などでの不具合の対策について、本社工場長が主宰し少人数で「品質会 議」を行い、重要な案件だけをMR会議に報告するように決定しました。
この結果MR会議では、別の重要な案件に時間を使う余裕が生まれたのです。また何よりも大きかったのは、「品質 会議」を設けることを、全員のコンセンサスの下に決める事ができたことです。このように会社の「制度」を自分たちで決められるという経験と自信は、チーム 経営の促進にかけがえのない財産になったと思っています。
(5)ステップ3 MR会議における優先的議案と話し合いの進め方の明確化
こうして、MR会議には、余裕が生まれてきました。次はこの時間をどのように有効に使うかが課題となります。そ のために、このステップでは、当初のプロジェクトメンバー(社長、本社工場長、総務担当)で、MR会議の準備会議を持ち、MR会議で優先的に扱うべき案件 について話し合いました。
こうした会議の準備は、MR会議本体で行うこともできたと思います。ただ今からふりかえると、社長や主要な幹部で、全社的に重要な課題は何かを話し合う場として機能したという意味で、非常に意味があったと考えています。
(6)ステップ4 相互学習型会議の実施と改善
さて、こうした準備の上で、実際のMR会議を行っていきました。ファシリテーターは従来どおり、プロジェクトに も関わっている総務担当の方、他にルールチェック役、タイムキーパーなどの役割を決めました。チーム経営のスタッフは、書記役の1人として入りながら、必 要な時にファシリテーターの補助として進行役を助けました。
最初は、なれない事もあり、時間を読み間違って、こなせない案件があったり、会議ルールが守られなかったりしま した。しかし、会議後のふりかえりの時間で、すばやく修正ができる体制が作られており、ふりかえりシートを改善したり、会議の準備で時間の予測を丁寧にし たり、徐々に会議の改善が進んでいきました。
その中で、これまで発言量の少なかった若手社員が建設的な発言を積極的に行うようになるなど、「場」も大きく変化していきました。また毎回のMR会議で着実に重要な課題が話し合われ、一定の前進を見るので、メンバーにも活気が生まれていきました。
(7)MR会議改善プロジェクトの評価
このようなステップを踏み、3ヶ月のMR会議改善プロジェクトは終了しました。そして評価方法として、MR会議全員によって、下記評価シートを記入して頂きました。
(改善プロジェクトが始まる前を評価3とした時、下記の項目の現状を、あなたの視点で評価して下さい。最高点は5点、評価者8名の平均点)
<効率性の指標>
5段階評価
1
会議に費やすマンパワー(人数X時間)が削減された
3.9
2
重要な議題について、どのように話しあって行くのかがデザインされている
3
緊急度・重要度などに応じて、議題にかけるべき時間・体力を意識できている
3.8
<創造性(課題解決力)の指標>
4
組織の重要な課題(アジェンダ)が、新たに明確になった
4.1
5
会議において優先的に討議すべき課題(アジェンダ)を明確化できている
4.2
6
重要な戦略的課題(アジェンダ)の検討に、今まで以上に時間を割けている
4.3
7
課題解決のために、遠慮なく意見・アイディアがいえる雰囲気がある
8
課題(アジェンダ)を解決していくのに必要な知識・スキルが意識できている
3.6
9
メンバーが自分の業務上の役割分担にとらわれず、積極的に課題に向かっている
3.9
<個人の成長の指標>
10
メンバーにとって会議が、新たな情報・考え方にふれる学びの場になっている
4.3
11
会議の中などで、メンバーが自分の考え方、コミュニケーションのくせに気づいた
3.6
12
メンバーの会議への満足度が向上した
4.1
13
メンバーの一人が会議メモを作成でき、それを整理できる
3.6
14
メンバーの一人がファシリテーターの基本的機能を果たせる
3.4
15
メンバーが会議のプロセスのふりかえりができる
3.6
16
メンバーが、どんな議題をどのように話していくかの会議の設計ができる
3.4
17
リーダーが会議ファシリテーションにおけるリーダーシップをマスターしている
3.7
<組織の成長の指標>
18
協働のための会議ルールが皆に共有されている
4.1
19
会議を進めるための役割(ファシリテーター・書記・・)が皆に理解されている
20
会議自体が、ふりかえりによって常に改善できるようになった
4.1
21
実行しやすく、メンバーの納得度が高い意思決定の方法が選択できている
3.8
22
情報が整理整頓され、メンバー間で必要な情報がよりよく共有できるようになった。
3.9
23
経営者が業務のコントロールをよりよくできるようになった
3.1
24
組織目標が、メンバーによりよく共有されるようになった
4.1
25
組織にとって新しいやり方、考え方、スキルなどがメンバーからもたらされた。
3.9
3、MR会議における知恵とチカラをあわせる場の定着
(1)会議ファシリテーションの定着~知恵とチカラをあわせる場の形成~
このように、2007年1~3月に行われたMR会議改善プロジェクトの結果、MR会議で智恵とチカラをあわせる場づくりに関しては、基礎的な成果を上げることができました。
そして治部社長と話し合った結果、第2段階として
・MR会議における会議ファシリテーションの定着
・各部門やプロジェクトチームなどへのファシリテーションの展開(経営計画策定など)
などをねらいにプロジェクトを継続することになりました。
具体的には、MR会議準備会議、MR会議に定期的に関わるとともに、経営計画プロジェクトを支援するなどを行いました。
会議にファシリテーションを導入すると、ほとんどの組織で見られる興味深い現象があります。それは会議の目標達 成度と進め方の満足度の指標が4~5回目で一度ピークを迎え、その後一度下がり、そして10回目くらいから徐々に安定していくというカーブを描くことで す。この間が知恵とチカラをあわせる場づくりにおける難所なのです。
MR会議のアンケート集計結果(6点満点)
治部電機様でも、最初のプロジェクトが終わって会議への満足度が下がりました。この理由として考えられるのが、「知恵とチカラをあわせる場を築く」生みの苦しみです。
どんな職場でも、コミュニケーションのあり方、目標共有の仕方、意思決定の仕方の独特のクセを持っています。こ こに課題があるので「知恵とチカラのあわない場」が生まれてしまっています。しかし、ファシリテーションの導入によってこうした建設的でない場は「解凍」 されていき、この時混乱が生じパフォーマンスが下がるのです。そして10回目くらいで知恵とチカラのあう場が形成(再凍結)され、その後安定するのです。
(2)チーム経営促進のための最大の難所
これまでの「場」が解凍される時期は、チーム経営を促進する上で最大の難所と言えるでしょう。ここをもう少し分析すると、次のようなことが生じていると考えられます。
会議ファシリテーションが導入されると、自由な雰囲気が生まれ本音が出てきます。これに伴い会議・グループの目 標についての疑問などが出されるようになる場合があります。(いま何をしているか分からない。この会議に何の意味があるのか?)またリーダーやほかのメン バーに対する否定的な意見がでてくることもあります。
このように会議ファシリテーションが導入され、自由度が高まると自分がどこまで発言していいのか、グループに影響を及ぼしてもよいのかの探り合い、テストが生じるのが普通です。新たな場のあり方を探っている段階です。
こうした際、リーダーがあわてて否定的発言を封じたり、一方的に決定をしたり、議案や目標を押し付けたりすると、会議は自由さを失い、元の知恵とチカラをあわせられないグループプロセスに戻ってしまいます。(リーダーにとっては、ここが胸突き八丁と言えるでしょう)
こうした際に行うべきことは、グループにどうすれば知恵とチカラをあわせることができるかを考えさせ、互いに自由に発言しつつ目標をすりあわせ、その目標に向かって妥協しないで向かうという建設的な規範(ルール)を設定することです。
このように、会議ファシテーションでは、建設的な場が定着することが極めて重要です。そしてこれは大体 10~15回くらいの会議ファシリテーションの経験ののちに起きるようです。治部電機様では、幸い無事にこのプロセスを乗り越え、知恵とチカラをあわせら れる会議は、きちんと定着していきました。
4、職場・組織活性化のための場(会議・プロジェクトチーム・・・)のデザイン
(1)職場活性化のプロジェクト
このように2007年4~12月の取り組みの結果、MR会議における智恵とチカラをあわせる場づくりに関しては成果を上げることができました。
そして治部社長と相談し、MR会議(MR準備会議)という組織運営上の軸で知恵とチカラをあわせる場をレベルアップしながら、全社員の集う「全社勉強会」、経営計画を立てるプロジェクトなどにファシリテーションを展開し、職場全体を活性化させていく方向性が決まりました。
またそのために、ファシリテーターの育成を図ること、さらに職場全体の課題を整理するため、社長との個人面談を行うことを決めました。
(2)結果
全社勉強会の活性化と小集団活動の発足
まず全社勉強会の準備会が作られました。そこで月1回、勉強会のねらいとスケジュール、プログラムが練られていきました。そして勉強会では自分たちがファシリテーター、書記を担い、皆が参加できる形へと変えていかれました。
またMR会議の中で、メンバーから小集団活動が発案され、試行錯誤の結果、毎月勉強会で成果を発表するフローが 作られました。こうした発表の場、チェックの場ができたことで、製造現場における小集団活動は定着し、職場活性化の成果は一般の従業員にまで及ぶことにな りました。
人材の成長
また定期的にチーム経営のファシリテーション講座にメンバーが参加され、ファシリテーター、書記が育っていかれました。いまでは、MR会議を含めた多くの打ち合わせや会議で、自社の方がファシリテーターと書記を担って自分たちで会議ファシリテーションを実践されています。
プロジェクトの活性化
さらにMR会議を基盤として、さまざまな経営課題を機動的に解決するプロジェクトが作られ、それをMR会議で 管理していく仕組みが作られました。特にBSC(バランススコアカード)を使って経営計画を策定するプロジェクトをMR会議で管理することで、MR会議で 経営計画の進捗が話されるようになり、PDCAがしっかり回るようになっていきました。
5、新たなステップへ
このように治部電機様では、
・MR準備会議における案件整理の場(トップダウンすべき事項の選定)
・MR会議における重要事項のコンセンサスとボトムアップの提案
・勉強会における全社的共有
という3つの基盤となる「場」を確立され、組織運営の活性化を図ってこられました。これは大きな成果だったと思います。
そしていま、治部電機様では、新しい組織体制を作られるとともに、経営会議の新設、MR会議における全社的マーケティングの推進など、上記3つの「場」を大きく変革・進化させ、より高い目標へと向かう態勢を整えようとされておられます。