共感と共働の社会を築きたい1 -職場における人間関係について-

 二十七年前に宣告された「進行性筋萎縮症」の影響で、数年前から生活の不自由度が増してきた。いずれはそうなるだろうと覚悟は決めていたものの、それが現実になってくると受け入れるのに若干の時間が必要であった。そして、いまなお、障害者の若葉マークと自称しつつ、自分の不自由さと付き合い、回りの人からの援助をどのように受けていくか、受けた援助に自分はどう応えることができるのかなどと試行錯誤の毎日である。

障害者となっていく私が、相互依存・相互援助・相互信頼を基礎とした共感・共働の社会をどのようにイメージしているかをレポートしてみたい。

 

創造的な人間関係を学ぶ

私は、約三十四年前大学職員として仕事をはじめた頃に、アメリカで生れた「ラボラトリー・トレーニング」と総称される新しい「人間関係訓練」プログラムに出会った。今までの知識伝達型の研修ではなく、体験型・参加型の研修で、研修に集まった参加者の関係の場すなわち<いま、ここで>起っていることや感じていること・気づいたことを学習の素材にして、対人関係能力を体得して行くというものであった。

 斬新な訓練方法に加えて、「社会的感受性を高め、創造的な人間関係を学ぶことで、やがて相互信頼・相互尊重・相互依存の社会や共感・共働・共生の社会を築いていくことができる」とのコンセプトにも強く引きつけられた。

 その後、自らの継続訓練と並行しながら、大学生対象のリーダーシップ訓練、電話相談員の訓練、ボランティア養成、社会人向けの「ヒューマン・リレーションズ・ラボラトリー」などの実践に取り組んできた。現在、研修を共にした仲間と一九八二年に設立した聖マーガレット生涯教育研究所(略称・SMILE)が活動の拠点になっている。

 

自尊感情を育てる

この研究所がおこなう代表的な訓練プログラムは二つある。基礎訓練である、「ヒューマン・リレーションズ・ラブ」(Tグループ・トレーニングとも呼ばれている)これは集中合宿のプログラム。はじめて会う一〇名前後のメンバーと一~二名のファシリテーター(指導者)によって構成される小グループでセッションを重ねていく。グループの<いま、ここ>という場に起こるさまざまな出来事を素材として、自分や他者への理解、共感的な対人関係のあり方に気づき、体験的な学び方を学ぶことがねらいである。

 もう一つは、スキル・トレーニングと位置付けている「アサーション・トレーニング」。これは、相互尊重の自己表現を理論と技能をロールプレイなどの手法によって習得するものである。プログラムは体験学習法をベースに、自分の日常の表現行動を点検したり、率直な自己表現を妨げている考え方に気づいたり、苦手とする場面を明確にして、自分の望む表現を練習する。そして相互尊重の対人関係能力を習得する。

 この二つのトレーニングはともに、結果として、自分を肯定的に認める・自分に自身を持つ・自分を価値あるものと認める気持ちを育てることが人間関係の基本であることを学ぶのである。このような気持ちや感情は自尊感情あるいは自負心と名付けられていて、心理学ではセルフ・エスティーム(Self-Esteem) という概念として知られている。

 私はTグループで、人との出会いや葛藤、和解そして別れの経験をとおして、人と気持ちを分かちあう、異なった人格ではあっても共感が成立することを学んだ。そして、アサーション・トレーニングでは、自分の気持ちや考えを大切にし、相手のそれらをも大切にする対人関係能力を身につけることができた。共働できる関係づくりの基礎能力を活用できるようになったのである。

 障害者となったいま、自分が学んだこ対人関係能力を生活のなかでどのように実現していくのかという大きな課題が私には与えられているのだと思う。

 

相互援助は傾聴から

 私は訓練のなかに好んでいれる実習がある。導入時の参加者の緊張をほぐす意味もあって、二人組で「肩たたき」をしてもらう。先に肩をたたく人は、まずこうすれば相手が気持ちがいいだろうというやり方で肩をたたく。しばらくして、受け手に、たたいている人にこうしてほしいと注文をするよう指示。している人は注文どおりにする。受け手は一方的に肩をたたいてもらうことと、注文どおりにしてもらうことを経験する。役割を交替して、もうひとりも同じように経験。

 その後の分かちあいで「あなたはどちらが気持ちがよかったですか?」と参加者にしてもらったときの感想を聞く。後の方が気持ちがよかった、せっかくしてもらっているのに注文をするのは気が引けるなどとの感想。続けてする側になったときの感想も。すると、黙っていしているときは、これでいいのかという不安がある。注文を聞くと思い切ってできるなどと。

 人の援助をするときに、する側は自分の勝手な思いで援助をし、自己満足に陥ってしまう。相手のことを聴いて、相手が望む必要なだけの援助をすることの大切さに気づく。受ける側もしてもらっているからといって、遠慮したり、我慢してしまうことあるのだと気づく。

「肩たたき」という簡単な実習をとおして、援助関係の基本を学ぶのである。