人間関係塾3時間目  傾聴と受容1

 二時間目の講義では、相手をよく知るために養わなければならない力として、「みる力」と「きく力」があることを伝えました。そして、「みる力」について一緒に学びましたので、今回は、「きく力」について話してみます。
  

▽楽しいときと煩わしいとき

 一時間目の講義で、私が幼いときから利用していた散髪屋さんのことを紹介しました。その続きです。
 私が三〇代のころ、一九七〇年前後の大学紛争で騒がしいころです。フォークソングがもてはやされ、その歌手たちのファッションを真似て、若者たちの間では長髪とジーンズが流行となります。私も大学に勤めていたこともあって、耳が隠れるほどの長髪にしていました。近所の散髪屋のおじさんは、私が長髪にすることをあまり快く思わず、しぶしぶ私の希望をかなえていたようです。
 そんな雰囲気もあって、職場と自宅の間にある理容店を開拓し、仕事の帰りに利用するようになりました。
 新しい理容店は、マスターのほかに理容師と見習いの若い人もいました。
 そのマスターは、とても研究熱心で、私のカットをしながら、カットの仕方や最近の流行の髪型などについて話してくれました。
 マスターは自分の得意な話題を話すことで、客との会話を成り立たせようと努力しているのです。それに加えて、客である私に関心をしめし、職業のことや職場のことなどを質問して、共通の話題探しをしながら、会話を弾ませようとしていることが伝わってきます。
 私はカットをしてもらいながら、マスターとの会話を楽しみ、リラックスにもなったのです。
 弾む会話も楽しいのですが、それが煩わしくなるときもあったのです。私の方の事情もその日によって異なります。仕事の疲れを引きずって店の椅子に座るときもあります。そんなときは、頭に蒸しタオルを巻かれると同時に眠くなってくるのです。しかし、話しかけられると、応答しないと悪いかなと思っておつきあいをしてしまうのです。
 辛抱できないでうつらうつらしてしまいまったときは、自然におしゃべりから解放されるのですが、どこか悪いなという気持ちが残ります。
 
▽無口なのもさびしい

 近所のカットハウスが転居することになり、後輩の紹介で行った理容店のことです。店のマスターは、五〇代ぐらいの人物で、奥さんらしき女性が手伝いをしていました。
 私が店にはいると、「いらっしゃいませ」といって椅子に案内し、私の注文を聞いて、カットに入ります。
 彼は、そのあとは黙々とハサミを動かし、作業をしていきます。私は一元の客であるのに、私に対して注文を聞く以外の声もかけず、質問もせず、話しかけもせず、ハサミの音だけが響きます。
 このカットをしたり、髭にあたったりしている作業に私は身をゆだねているのですが、会話のない空間に変な緊張感を感じたのです。
 ここのマスターは、客である私に対して関心をもっていないのではないのか、会話で客をもてなす気があるのだろうか、と変に勘ぐってしまったのです。カットなどの作業が終わったときに、何ともいえない疲労感を感じたのです。
 その後二回ほど行ったのですが、近所のカットハウスが週一日だけ店を開けることになったので、それ以来行かなくなりました。紹介してくれた後輩は、物静かで自分の好みだと言っていました。しかし、事情は分かりませんが、数年後に閉店となったと聞きました。

 

◇きく力を養う

▽「聞く」

 皆さんは「きく」という読みから、どのような漢字が思い浮かびますか。
 多分、すぐに思い浮かべるのは「聞く」でしょう。
 この聞くは、耳で音や声を感じとることです。鳥の鳴き声を聞く、話し声を聞く、周囲の物音を聞く、噂を聞く、聞き流す、聞き置くなどのように用いられています。広い意味で一般的にこの「聞く」が用いられます。さらに、たずねるという意味で、「道を聞く」や「親の言うことを聞く」つまり従うという意味のも使われています。

 ▽「訊く」
 次の「きく」は、「訊く」です。この漢字は日常にはあまり使われませんが、「尋問」する、相手に質問をするという「きく」です。相手の言葉や話が分からなかったり、つじつまが合わなかったりするとそれを明確にする質問です。日常的には、「言葉の意味を聞く」と表記することがおおいのですが、ここではあえて、区別をしておきます。

 ▽「聴く」
 三つめの「きく」は、傾聴の「聴く」です。辞書によると、耳を傾け、注意して聞き取ることと説明されています。
 この「聴く」の基本は、相手の話していることに耳と心を傾ける、相手の気持ちを分かろうとする、そして何よりも大事なことは、相手の存在に関心を持ち、その人の人格を尊重する態度です。
 そのような聴き方をすると、相手に対しての全神経を集中するためにずいぶんとエネルギーを必要とします。